“ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵の有名作品を、画家やモデルや発注者の人生、そして彼らが生きた時代を手掛かりにして読み解いてみよう”、これが本書の趣旨です。ひも解く作品は、ギャラリーのコレクションの豊かさを反映すべく、16世紀から18世紀のベルギー、オランダ、イタリア、イングランドで制作された風刺肖像画、風刺画、宗教画、そして都市景観画をふくむ風景画と幅を持たせております。とは言え、やはりローマ、ヴェネチア、フィレンツェ、ロンバルディア諸都市などイタリアの比重は大きくなっています。

　本書のタイトルA Radical History Tour at the National Gallery London の“Radical”とは、「過激な」ではなく「根本的な」という意味で、画家やモデルやパトロンといった作品の創作に関わる人物や、作品の時代のできごとを視野にいれて鑑賞する姿勢への言及です。時代を追って読み進むにつれ、各時代の出来事がゆるやかにつながりつつ絵画の成り立ちに関っていることに気づかれるでしょう。「名画」は時代の激動を昇華し、多くは複数の所有者の手を経て遺されてきました。それゆえ、今もわれわれの心に訴えるのではないでしょうか。本書には付属の小冊子があり、その注を参考にした予習などを行うことで、授業では同じく小冊子掲載の「語彙の準備」や「内容把握の質問」を展開し、また各章の最後に、マニュアル（TM）掲載の、章ごとの穴埋め問題を評価の参照としていただくことによって、「背景知識に支えられた発展的語彙力の積み上げ」の実践ができるよう、そして、豊かな知識が学べるよう、その工夫がされた1冊となっています。